インサイドセールスは戦略職だ -FSの知見をISに戻す中堅組織の設計論-

目次
ISチームに新人を配置し、FSへの登竜門として運用する。
そういう組織は、中堅企業の営業部長に話を聞くと今も珍しくありません。
採用コストを抑えながらフィールドセールスへの準備教育も兼ねられるという、一見合理的な設計です。ところが、この設計が「事業全体を見ながら商談づくりを考える役割」を、組織の内側から少しずつ弱めてしまう可能性があります。
本記事では登竜門型IS設計で起こりやすい3つのポイントと、その見直し方として「FSの知見をISに戻すキャリア設計」を整理します。
ISは「登竜門」という常識の正体
THE MODEL型の分業が広まって以降、IS・FS・CSを切り分ける組織は中堅企業にも浸透しました。その中で「まずISで基礎を学び、成果を出したらFSへ」というキャリアパスも、かなり一般的になっています。この設計の背景には、「ISは経験が浅い人材でも担いやすい仕事だ」という見方があります。
アポ取り、ナーチャリング、架電管理——こうした業務だけを見ると、ISは新人向きに見えるかもしれません。ただ実際には、顧客の課題を想像し、検討の温度感を見極め、商談の質を高めることもISの大事な役割です。これは、経験や顧客理解がないとなかなか難しい仕事です。最近では、「ISは事業全体を見ながら、質の高い商談をつくる重要な役割だ」という考え方も広がっています。一方で、その考え方が組織づくりに十分反映されていない中堅企業も、まだ少なくありません。
3つのポイント——登竜門型組織で起こりやすいこと
ポイント① アポ数KPIに寄りすぎると、商談の質に影響する
ISを新人に任せると、評価指標はアポ数・架電数に偏りやすくなります。「まずは量をこなそう」という育成方針と、「成果を数字で見たい」というマネジメントの考え方が重なりやすいからです。その結果、商談の確度よりも件数を優先する動きが生まれやすくなります。
従業員400名規模のある製造業では、IS部門のKPIをアポ獲得数のみに設定していました。アポ数が月間80件を超えたものの、FSへの受け渡し後の有効商談率は3割を下回り、FSのリソースの大半が「温度感の低い商談」への対応に使われていました。量を追う評価設計は、質への意識が後回しになりやすい側面があります。
ポイント② 顧客理解に差が出やすい
ISが最前線で顧客と接しているのに、その情報がFSへ十分に共有されない。これは、登竜門型組織で起こりやすい課題です。ISからFSへ商談を渡すときに共有されるのが「アポ日時と基本情報」だけになり、「顧客が何に困っているのか」「何を不安に感じているのか」といった大事な情報が抜け落ちてしまうケースがあります。
また、IS担当者の経験が浅い場合、ヒアリングの深さにばらつきが出ることもあります。顧客の本音を十分に引き出せないまま商談化してしまうと、FS側も商談の入り口で苦戦しやすくなります。本来は役割分担のための分業が、顧客情報の受け渡しを弱くしてしまう場合があるのです。
ポイント③ FSの知見がISに戻りにくい
もうひとつ見落とされやすいのが、FSが商談・失注・受注の現場で得た「顧客のリアルな反応」が、ISに戻りにくいことです。どの業界・規模・課題感のリードが商談化しやすいのか。どんなメッセージが響きやすいのか。こうした情報は、ISのアプローチを良くするうえでとても重要です。
しかし、ISからFSへ商談を渡す流れだけが定着している組織では、FSからISへフィードバックする場がないこともあります。そうなると、ISは毎月同じやり方でアプローチを続けることになり、改善のヒントを得にくいまま疲弊してしまう可能性があります。
FSの知見をISに戻すキャリア設計とは
ここまでの3つのポイントを見直すうえで有効なのが、「FSの知見をISに戻すキャリア設計」です。たとえば、FS経験者が一定期間ISを担う。あるいは、ISとFSを行き来するローテーションを組み込む。こうした設計によって、ISが単なる商談供給の役割ではなく、商談の入口をつくる重要な役割として機能しやすくなります。
実装のポイントは3つあります。
第一に、配置の見直しです。FSを経験した人がISを担うことで、顧客理解のあるアプローチを設計しやすくなります。IS業務が「商談の入口を戦略的にデザインする仕事」として機能し始めます。
第二に、KPIの見直しです。ISのKPIをアポ数だけでなく「有効商談率」「受注への貢献度」まで広げることで、質への意識が生まれます。ISとFSが同じゴールを見られるようになると、単なる分業ではなく、一緒に成果をつくる関係に近づきます。
第三に、ISの役割の見直しです。ISを「商談を供給する部門」ではなく、「パイプラインをつくる部門」として位置づけ直すことです。IS担当者が、事業目標から逆算して「何のためにこの顧客へアプローチしているのか」を理解できる状態が、質の高い行動につながります。
自社のIS設計を見直すためのチェック
自社のIS設計を確認するために、いくつか質問を用意しました。これへの回答を通じて、今の組織がどのような状態にあるのかを測ってみましょう。
- IS担当者の平2経験年数が3年未満に偏っていませんか?
- ISのKPIが、アポ数・架電数中心になっていませんか?
- FSからISへフィードバックする場が少なくなっていませんか?
- 商談を渡すときの情報が、アポ日時や基本情報だけになっていませんか?
3つ以上当てはまる場合は、登竜門型の運用に近い状態かもしれません。短期的にはうまく回っているように見えても、少しずつパイプラインの質が下がっていくリスクがあります。
ISを戦略的な役割として設計し直すことは、一夜でできるものではありません。ただ、まずは月1回のIS・FS合同レビューを設けるだけでも、商談の質は変わり始めます。FSが失注理由を共有し、ISがリードの反応を伝える。そのやり取りを増やすことが、FSの知見をISに戻すキャリア設計の第一歩です。自社のIS設計を見直すヒントは、そうした日々の会話の中から集まっていきます。
執筆者

株式会社セレブリックス
市場開発本部 事業開発部 YEALEグループ 事業オーナー 兼 YEALE編集長
能村 和徳 Kazunori Nomura
セレブリックスのアカウントセールスとして活躍し、二期連続で全社MVPを受賞。さらに通期優秀マネージャー賞を獲得するなど、営業・マネジメントの両面で実績を残す。大手自動車メーカーをはじめとした企業への営業コンサルティングに従事した後、現在は事業開発部門にて新規事業の推進に携わる。営業職を応援するメディア『YEALE』の事業オーナーとして、「いい営業して、うまい酒飲もうぜ」をコンセプトに、営業パーソン向けの実践的なナレッジコンテンツを発信している。
※2026年8月時点の情報です。
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