営業訪問を「顧客がこちらを向く時間」に変える、“ナーチャリング”という考え方
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営業の仕事では、すぐには発注につながらないお客様とも、付き合いを続けることが少なくありません。用件がなくても定期的に顔を出したり、返事が途絶えた相手にどう声をかけるかを考えたりする場面もあるでしょう。
こうしたお客様との関係を育てていく取り組みを、マーケティングの分野では「ナーチャリング」と呼びます。ナーチャリングはメールの定期配信やMA(マーケティングオートメーション)ツールの話として紹介されることが多いため、自社にはまだ早いと感じる方もいるかもしれません。ただ、ナーチャリングの考え方は、日頃の営業活動と重なる部分が多くあります。
この記事では、ナーチャリングの考え方と4つの段階を簡単に整理したうえで、今の営業活動をどう磨いていけばよいかをお話しします。新しい仕組みを入れる前に、いつものお客様とのやりとりを振り返りながら読んでみてください。
ナーチャリングは、メールを送るだけの活動ではない
ナーチャリングは「顧客育成」と訳され、問い合わせや名刺交換などで連絡先がわかった見込み顧客に、メールなどで情報を送り続けて商談につなげる活動を指すのが一般的です。
そのせいか、私がナーチャリング支援を専門にしていると話すと、メルマガ配信をはじめとしたリードナーチャリングの支援をしていると思われることが多々あります。
グロースソイルでは、ナーチャリングをもう少し広く「お客様がこちらを向く瞬間をつくること」と定義しています。相手の名前や連絡先がわからない段階でも、自社の発信に目を留めてもらうことはできるし、営業担当者が個別にやりとりを始めた後も、相手にこちらを向いてもらう働きかけは続くのです。
このように定義を捉えなおすと、リードナーチャリングは、ナーチャリングの一部にあたることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
ナーチャリングは、売上に近いカスタマー・セールスから始める
グロースソイルでは、ナーチャリングを相手との関係の深さによって、次の4つの段階に分けて考えています。

- アンノウンナーチャリング
まだ相手の名前や連絡先がわからない段階。記事やSNS、YouTubeなどで発信し、自社や自社が扱うテーマを知ってもらう
- リードナーチャリング
連絡先はわかっているものの、検討を始めているとは限らない段階。メールなどで関心や課題に合った情報を送り、理解を深めてもらうことを目指す。一般にナーチャリングと呼ばれているのは、主にこの段階
- セールスナーチャリング
営業担当者が一人ひとりの相手と個別にやりとりする段階。相手の状況に合わせて、検討や意思決定を支える
- カスタマーナーチャリング
既存のお客様として個別にやり取りする段階。お客様との定例会などで伺った内容、サービスの利用状況などをもとに、解約防止や契約拡大につなげる
人手もノウハウも限られるなかで4つの段階を一度に始めようとすると、何から手をつければよいかわからなくなり、施策は迷走しがちです。そのため、これからナーチャリングに取り組む場合、私は売上に近い「カスタマー」「セールス」から始めて、リード、アンノウンへと徐々に施策を広げていくことをおすすめします。
最初に取り組むべきカスタマー/セールスナーチャリングは、実は営業担当者が日々行っている活動そのものです。たとえば、担当のお客様を定期的に訪ね、すぐに発注や商談につながらなくても会話を交わす。こうした営業活動は立派なカスタマー/セールスナーチャリングといえます。

カスタマー/セールスナーチャリングは、今ある営業活動を磨くこと
先ほど、ナーチャリングを「お客様がこちらを向く瞬間をつくること」と定義しました。相手にこちらを向いてもらうために欠かせないのは、役に立つことです。
とはいえ、役に立てば何でもよいわけでもありません。たとえば、製造業の会社の営業担当者が菓子折りをたくさん抱えて訪ねても、相手の事業の役に立っているとはいえないでしょう。ここで重要なのは、あくまで自社の事業とつながるかたちで情報を提供することです。
ここからは、既存のお客様、話が止まった相手、紹介してくれる人の3つに分けて、どんな情報をどう活用するとよいかを解説します。
既存のお客様には、業界やほかの地域の情報まで持っていく
役に立つ情報を持っていくこと自体は、すでに意識している方も多いでしょう。そのうえで試してほしいのが、情報収集の幅を広げることです。訪問先の会社のことだけではなく、業界全体の動きや、相手のお客様や地域の変化まで目を向けてみてください。
以前、ある小売店の店長から「あの営業さんが来るのを、むしろ楽しみにしていた」という話を聞いたことがあります。その方は食品・日用品メーカーの営業担当者で、同じお店に何度も足を運んでいました。お店側も忙しいので、売り込みの話ばかりでは相手にしてもらえません。
そこでその営業担当者は、商品の説明ではなく、お店の商売に役立つ話を持っていったそうです。たとえば、次のような情報です。
- このエリアに新築マンションが何棟建つか
- ファミリー層が増えるか、世帯年収がどう変わるか
- 駅前の再開発や、競合スーパーの出店があるか
不動産会社や地元の情報から調べたこうした話を伝えると、店長からは「それは知らなかった」「売り場を変えたほうがいいかもしれない」「来月の棚替えを相談したい」という言葉が返ってきたといいます。この営業担当者は、商品を売り込みに来る人ではなく、商売のヒントを持ってきてくれる人として迎えられていたのです。
このように、市場の動向を伝えられるだけでも、会話の中身は変わります。
話が止まった相手には、「コンテンツ」をきっかけに再アプローチする
返事が来なくなった相手や、一度検討が止まった相手に、次にどう声をかけるか迷うこともあるでしょう。失注や検討見送りの連絡を受けると、そこで関係が終わったように感じるかもしれません。
私は、失注こそナーチャリングを開始する好機だと捉えています。一度接点を持ったお客様は、自社の商品やサービスをすでに知っています。数か月から1年後に状況が変わり、再検討が必要になったとき、真っ先に思い出してもらえる可能性を高めるのも営業の仕事です。お客様の中でタイミングが来るまで、役に立つ情報を渡し続けることで、信頼は築かれていきます。
とはいえ、用件がない状態で連絡を続けられる人ばかりではありません。そんなときに助けになるのが、やはりお役立ち情報です。「こんな情報をまとめたのですが、よければ一度お話ししませんか」と連絡すれば、声をかける側の負担も軽くなります。私も、連絡のきっかけづくりには日頃からコンテンツを使っています。
紹介してくれる人には、自社が属する業界情報を語る
商工会議所や商店街の集まりで知り合い、取引先を紹介してくれる人も、ナーチャリングの対象になります。
紹介につながるかどうかは、人として好かれているかに左右される部分も大きいでしょう。それに加えて、紹介者に「この人は役に立つ」と思ってもらえていれば、紹介者は自信を持って相手に勧められます。「業界のことに詳しいから、一度話を聞いてみるといい」と紹介されれば、紹介された側も前向きな気持ちで会ってくれるでしょう。最初から話を聞く姿勢を持ってもらえる分、その後の受注にもつながりやすくなります。
いざというときに「〇〇ならこの人」と思い出してもらうためには、自社が属する業界の情報を日頃から発信することが欠かせません。自社が製造業なら、製造業は今どんな状況にあるのかを話題にしながら、自社はどんなことに対応できるのかも織り込むとよいでしょう。紹介者にとっては業界の動きを知る機会になり、自社を誰にどう紹介すればよいかもイメージしやすくなります。

ナーチャリングを、営業組織全体に浸透させるためには
これまでご紹介したような工夫を、情報感度の高い一部の営業担当者だけのものにしておくのでは、組織的な成果改善はなかなか進みません。
そのため、一人ひとりの訪問をより喜ばれるものにすることと、ほかの担当者も同じことができるようにすることの両方を同時に進める必要があります。
最後に、ナーチャリング活動を組織に広げるための方法を2つご紹介します。
顧客に喜ばれた情報をチーム内で持ち寄り、コンテンツにまとめる
調べた情報は、訪問先で話すだけでもお客様の役に立ちます。ただ、調べた本人の頭の中にあるままでは、ほかの担当者は使えません。一方、業界の動きやほかの地域の取り組みを冊子にまとめておけば、誰でもそれを持ってお客様を訪ねられるうえ、訪問の場でそのまま手渡せます。
冊子の中身は、集めた情報を並べるところからではなく、お客様に喜ばれた話を持ち寄るところから考えるとよいでしょう。営業会議で「この話をしたら、詳しく聞かせてほしいと言われた」「この話題には反応が薄かった」と共有していけば、載せるべき内容が絞られていきます。
こうしてまとめた冊子は、リード/アンノウンナーチャリングに取り組むときの材料にもなります。一人のお客様に喜ばれた話をコンテンツにして、より多くの相手に向けて発信する。それを続けていくと、「この会社から来る情報は受け取っておこう」と思ってくれる人が増えていきます。
営業担当者が持ち寄った情報からつくるコンテンツには、ほかにはない強みもあります。営業担当者は、お客様のリアルな悩みや反応をいちばん近くで見ていますし、提案を通じて自社の商品やサービスも深く理解しています。お客様と自社の両方をよく知る人の情報をもとにすれば、内容は自然とお客様の悩みに沿ったものになりやすいのです。
ただ、営業活動が本業の営業部門だけで、冊子やコンテンツをつくり続けるのは簡単ではありません。営業担当者は情報を持ち寄る役に回り、形にする作業はマーケティング部門や外部の制作会社に任せると、無理なく続けやすくなります。
細かな指標よりも納得感を重視する
新しい取り組みを社内に広げようとすると、成果を測る指標をそろえたくなるかもしれません。ただ、私は細かな指標をいくつも設ける必要はないと考えています。
商談数はもちろん見ますが、それ以外の数字を増やすことは推奨しません。
取り組みを始める段階で大切なのは、周りの人に「やってみよう」と思ってもらうことです。そのためには、数字よりも具体的な話が役立ちます。ほかの会社がナーチャリングにどう取り組んでいるかを社内で共有したり、「この情報を持っていったら喜ばれた」という小さな成果を伝えて回ったりするほうが、周りの人を動かします。
お客様の役に立つ情報を渡したほうがよいことに、異論のある人はほとんどいないはずです。日頃のこうした活動にナーチャリングという名前がつけば、「ナーチャリングをもっとやっていこう」と社内で話しやすくなります。すでにやっていることをみんなでよくしていくきっかけとして、この言葉を使ってもらえればと思います。
ナーチャリングは、営業の現場から始められる
冒頭で触れた「すぐには発注につながらないお客様との付き合い」は、手間のわりに成果が見えにくいと感じるかもしれません。ただ、お客様がこちらを向く瞬間は、こうした付き合いの中からこそ生まれます。役に立つ情報を持っていけば、売り込みに来る人としてではなく、商売のヒントを持ってきてくれる人として迎えてもらえます。失注したお客様や、紹介してくれる人との関係も同じです。
営業の現場で喜ばれた話は、会社の財産にもなります。冊子にまとめればほかの担当者も使えますし、いずれはメールや記事にして、まだ会えていない相手に向けて発信することもできます。マーケティング部門がなくても、ナーチャリングは営業の現場から始められるのです。
次の訪問では、どんな情報を持っていけばお客様の役に立てるでしょうか。本稿が社内での対話のきっかけになればうれしいです。
執筆者
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株式会社グロースソイル
代表取締役
髙橋 航平 Kohei Takahashi
MA/CRMの導入支援会社にてコンテンツ編集長を務めたのち、2024年に株式会社グロースソイルを創業。ナーチャリング戦略ファームとして、戦略・MA/CRM・コンテンツの3つの側面で支援するサービスを展開。独自のナーチャリングモデル「レベニューナーチャリング」「アクションナーチャリング」を開発し、企業が顧客志向でナーチャリングに取り組めるよう支援している。
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